散文誌

日記・小説

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Category: 小説  

お題「自由」

 月の無い晩であった。等間隔に並ぶ街灯の侘しい明かりが、人気の無い道を照らしている。田んぼと川に挟まれた細長い道に、コツコツと気忙しいヒールの音を響かせ、裕子は家路を急いでいた。
 何かが、いる。見えはしないが感じ取れる不気味な存在が、裕子の、まだ幼さの残る顔に陰を落とした。街灯の仄暗い白色が道を照らしてはいるものの、両側は闇に縁取られ、いつもなら見える川向こうの町並みも、林の先の山も、漆黒の闇が覆い尽くしている。自然、裕子は足早になった。
 自身の息遣いと、ヒールの音が闇に響く。それに呼応するように、何かがうごめくような、不気味な気配。堪らなくなった裕子が走り出したとき、前方に黒い影が現れた。それは人の形をしていて、裕子は、ああ良かった、人がいたわ、そう安堵し、その黒い人影に近づいていくにつれて、それが放つ異変に気づいた。そのヒトは、一向に影を払わないのだ。よく見ると、街灯の下に立っているにもかかわらず、黒い影に身を包んでいる。それの異様さに、裕子は逃げ出そうと試みるが、なぜか足が、手が、身体が動かない。硬直した身体、見えない影。恐怖に我を忘れた裕子は悲鳴を上げた。しかし、その引き攣った唇からは、擦れた声が漏れ出ただけであった。
 経験したことの無い恐怖に、気も狂わんばかりの裕子に、影はゆっくりと近づいていく。一歩一歩、間を詰めていく。やがて裕子の目の前に立った影が、口と思しきモノを開けると、オーロラのような波紋を描く深淵が、裕子を誘っているかのように怪しく揺らめいていた。
 今にも泡を吹きそうな裕子を、影が飲み込もうとした、そのとき――。
 闇を切り開くようにして、ブルーのタイツに身を包んだ一人の男が、悪しき影に一撃を加えた。その衝撃に、たたらを踏む影を尻目に、男は素早く裕子を抱え、後方に非難させる。
「私が来たからにはもう大丈夫。ここであのブラッカーが無様にやられる姿を見ているんだ。なに、心配はいらない。なにせ私は――ヒーローだからね」
ヒーローの甲高い声に、気が動転している裕子は目を白黒させ、擦れた声を上げるのが精一杯だった。ヒーローはその様子に内心不満を感じたが、目先の脅威を取り除こうと、その身を残像に変え、影に迫っていく。
 ヒーローが振り返ったとき、すでに影は体制を建て直していて、深淵の口を自身よりも大きく開かせている最中だった。ヒーローはそれを見て、素早く何かの動作を行う。それはまるでアニメのヒーローが必殺技を繰り出すような、大げさでかつ無駄な動きのように、裕子には見えた。
「貴様ごときにこんなモノは使いたくはなかったが仕方ない、今日の私は早く帰りたいのでね、手早く済まさせてもらうよ――いくぞっ!」
 掛け声とともにヒーローの手から青白い発光体が連綿と連なり出てくる。一直線に影へと向かったそれは、影を覆いつくし、やがて大きな玉になったかと思うと、花火のように弾け飛んだ。
「ふぅ……。ちょろいものだな、これでは歯ごたえが無さ過ぎてつまらんじゃないか。まあ、私が強すぎるのも問題だな、ククククク。さて、君、大丈夫かい?」
 ヒーローの問いに、身を縛るものが無くなった裕子は、この不思議なヒーローとブラッカーと呼ばれる怪物の戦いに呆気にとられ、どう反応していいのか、困り顔であった。
「ふむ。腰が抜けたかなお嬢さん。しかしもう大丈夫、悪しき怪物は私の手で葬り去った。君たちの自由を守るべくして生まれた、このヒーローによってね」
 得意げに自らを指すこの不思議なマスクマンは、どこか可笑しく、裕子は口元に笑みを浮かべた。
「ありがとう、ヒーローさん。あなたのおかげで助かりましたわ」
「礼には及ばないよレイディー。これが私の務めなのだから、ね。それではさらばだ、レイディー。気をつけて帰りたまえよ」
「まっ、待ってください! あなたの、名前をまだ聞いていません」
 裕子の声に、踵を返そうとしたヒーローは立ち止まった。
「私はフリーマン――ヒーローさ」そう言うと、ヒーローは残像を残し、この場から消え去った。裕子は、ヒーローが一瞬にして消えた所業に、呆然としていたのであった。

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Category: 日想  

久々に更新

最近、twitterを始め、vipperの方々と交流を深めている。それだけ。

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