散文誌

日記・小説

Sort by 09 2014

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お題バトン『時間』

 交差点の一角に、ひとだかりが出来ていた。トラックが横断歩道を半ばまでふさいでいる。白い白線には黒いタイヤ痕と、朝日を浴びて照りかえる色鮮やかな赤い飛沫が散っていた。誰もが一点を見つめていた。トラックの前輪に乗り上げられ、うつ伏せに倒れている女性を。腹部から両断されたように見える女性の手は、夥しい血に塗れたアスファルトを掻いていた。震える指が指し示す先にある便箋を、手繰り寄せようとするかのように。誰もが魅入られたように女性を見つめていた。遠くからサイレンの音が迫ってくる。女性の震える指が一瞬、空を掻いた。それが最後の命の灯火だったのか、ぴくりとも動かなくなった女性に、誰も近づこうともしなかった。





 夜空に橙色の花が咲いた。一つ、また一つと、口笛のような風切り音から、ドンと弾ける火花が咲く。夜空をキャンパスに描かれる一瞬の儚くも美しい光が、花火大会に居合わせた二つの顔を照らした。少女は決まり悪そうに俯き、少年は膝に置いたスケッチブックと夜空を忙しなく行き来している。
 少女は早く家に帰りたいと思った。せっかくの花火も、話した事のないクラスメートが近くにいるせいで、落ち着いて見ていられない。それに加えて、少年がスケッチブックを照らすために点けた懐中電灯の光に寄せられ、大嫌いな虫がぶんぶんと耳障りな音を立てる。少女は段々腹が立ってきた。
 怒りの念を込めながら、ちらと少年を見遣るも、少年は黙々と筆を走らせている。そのとき、少年が花火を描いていないことに気づいた。花火じゃない。何か別のモノを書いている。少女は長い髪をカーテンに、心持ち首を傾けた。なんだろう? まだよく見えない。もう少し。あと少し。ぼやけた輪郭がカタチを帯びてきた。あれは動物? 一体なんの? 好奇心が少女の顔を真横に向けさせた。
 それはどうやら蛇のようだった。花火の尾の一つ一つが、蛇となって空を駆けている。
「なんで?」
 少女は思わず口走り、あっと口を塞いだ。少年はその声にびっくりしたあと、見られていたことに恥ずかしさを感じたのか、顔を俯け、ぼそりと呟いた。が、そのか細い声は花火の音に紛れて消えた。
なんて言ったんだろう? 少女がもう一度聞き返そうか迷っていると、少年が再度呟いた。
「龍だよ」
「竜? 蛇じゃないの?」
「日本の龍は蛇みたいな姿をしてるんだよ」
 少女はそう言われて、記憶の澱から東方の龍の姿形を思い出した。
「でも何で龍なの?」
 少年は恥ずかしそうに俯いて、「なんとなく」と答えた。そのとても内気そうな様子が、少女に親近感を抱かせた。私とおんなじなんだ。その思いが、言葉となって内気な殻を破った。
「私もよく絵を描くんだよ――」
 花火大会が終わるころには、二人は友達になっていた。少なくとも、少女はそう思っていた。





「もうすこしだよ。ほら、あともうひとふんばり」
 果てしなく続いていくように思えるくねくねとした山道を登りながら、少女は、前を歩く少年のあからさまな高揚に皮肉な笑みで答えるのが精一杯だった。酷使に慣れていない足腰が悲鳴をあげる。こんなことなら来るんじゃなかったと思いながらも、少女の足は止まる事はなかった。
 少女と少年を繋ぐのはいつも絵だった。少年の情熱に導かれるまま、少年の行くところ、至る所へ付いて回った。あるときは森へ。あるときは海辺へ。その他種種雑多な場所を経て。そうして今、中学受験を控えた冬休みに、羽を伸ばしたいという少年の赴くまま、中学校の裏山の、絶景だという場所へと向かっていた。
「ねえ、ちょっと休まない?」
「あとちょっとなんだよ、もうちょいなんだって。それに、こういうのは一気に登った方が楽だよ」
――分かったわよ。そう吐き捨てたと思った言葉は荒い息となって白い気を立てた。女の子らしい足取りなんか気にしていられない。どすんどすんと音を立てて一歩一歩前進する。そのことにいつしか気を奪われていて、少年の声に気づかなかった。
「――おーい。だいじょぶか?」
 もちろんと少女は返し、少年を見ると、何故か笑みを浮かべて右手の方を指し示している。
「なによ?」
「ここだよ。ほら、すごいだろ」
 少年の指し示す先は、そこだけちょこんとひらけた崖だった。猫の額ほどのスペースに、何故か学校の椅子が置いてある。眼下には海まで見渡せる壮観な景色が広がっていた。思わず目を瞠る。
「わお。ほんとにすごいね」
「だろ? さあ、スケッチスケッチ」
 それからはただスケッチに没頭した。筆を振るう間、言葉はいらなかった。景色と、互いの存在があれば十分だった。それは二人の習慣であったが、少女は近頃、少なからず悪習ではないかと思い始めていた。
 午後にはサンドイッチを食べながらおしゃべりに花を咲かせたが、次第に会話はとりとめのないモノになり、やがて少年はうとうとと船を漕ぎ出した。
 やがてすっかり寝入ってしまった少年に対して、少女はつと顔を合わせた。少年の髭とは呼べない産毛がこそばゆくて、少女はひとしきりその感触を楽しんだ。





――美大に行こうと思う。そう告げられても、少女は驚かなかった。閑散とした美術室の一角、キャンパスを前にした少年の背中は、固く貼り詰めていた。
 応援すると少女は言った。だけれど、一緒に行くとは言えなかった。少年が目指している美大は一流だった。少年には情熱があった。しかし、少女にはそこまでの情熱はなかった。
 少年が夢を追いかけ始めたときから、二人の間に目に見えない壁が出来た。これまで一分の隙もなかった二人の間に、違和感が生じた。少女はそれが悲しかった。
 少年は徐々にナーバスになっていった。一人にしてくれと、背中が語っていた。態度が訴えていた。言葉にはならない遠慮が、一緒に行きたいと願う少女の声を押し殺した。互いを固く縛り付け、互いを結束させたつながりが、今は忌まわしく思える。
 少女は初めて少年に疎ましがられていた。その拒絶が恐ろしかった。一緒に行きたいと言えば、少年は受け入れてくれるだろう。けれど、変わってしまった今の少年に、どう接すればいいのか、少女は分からなかった。少年の心から追い出されることがコワかった。
「今日はもう終わりにする」
 少年の帰り支度を手伝いながら、少女は今日が終わった事にほっとした。と同時に、明日の訪いに怖気をふった。





 少年の手紙はいつも味気なかった。絵画では繊細なタッチを誇る筆も、対象が手紙では能力を発揮できないらしい。文面にはつらつらと近況が書かれてあった。仕事のことや生活のこと。かつての少女にとって、少年は今も少年のままだった。もう何年も会っていない。こうして手紙だけのやりとりを続けて何年になるのだろう。待つ事にはもう飽いた。既に心は決まっていた。有給休暇もとってある。準備は万端だ。
 かつての少女は思いの丈を綴った。書きながらふと思った。手紙より、わたしが先に着くかもしれない。直接わたすのも面白い。どんな顔をするだろう。びっくりするかな? びっくりするよね? 笑む女の顔はかつての少女に戻っていた。





 這おうとして這えない。指は虚しく空を掻く。虚ろな目の先には、女が求めてやまない何かがあった。来る日来る日も、闇に覆われた世界で、唯一の光芒である何かを求め、這い、掻き、一向に縮む事のない道なき道を追い縋る。それが女の世界であった。来る日も来る日も、這い、掻き、追い縋る。
 終わりの見えない煉獄の闇。ただ在るのは唯一の光芒と、それを追い求める意識の世界に、何かが過ぎり、女は背けることのなかった光芒から目を逸らした。闇を蠢く物体が徐々に輪郭を持ち始める。
 それは悲愁が陰を落とした男の顔だった。男の佇む姿はつかの間、女に光を与えたかに見えたが、たちまち闇が覆い潰した。
 女は這い、掻き、追い縋る。終わりの見えない闇の世界で。女は今日もまた、這い、掻き、追い縋る。


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VIPでテキストサイトやろうぜから羊の水海さんより頂いたバトン。精一杯、丹精込めて排泄させていただき、真にありがとうございます。次のバトンが誰に渡るのか。それはこちらでお確かめください。
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Category: 日想  

自信喪失という棘

「自信喪失という棘は、魂そのモノに毒を注入して冒す」

理想と現実のギャップを埋めるのはなんだろう。理想へと至るまでの努力はもちろん必要だけれど、一番大事なのは多分、現実を受け入れて理想を実現できるだろうと信じる心だろうか。自分を信じるに足る根拠があってもなくても、変わるんだという揺るがぬ決意が変革をもたらす。そう、なにより大事なのは自信なのだ。
では自信とはどのようにして身に付けられるモノなのか。一番簡単なのは、他者に褒められることだろう。理想の自分を形作るどんな要素でもいい、何かを認められれば、それは信じるに足る根拠となる。自信だ。塵もつもれば精神で、こつこつと積み上げていく。それが多分、遠回りのように思えて結果的には最短の道を歩む道程になる。
ときには否定されるだろう。ときには罵倒されるだろう。そうして心が揺らいだとしても、それまでの過程で得た自信が自身を支えるはずだ。まだやれる。まだ頑張れる。

それは俗に希望と呼ばれる代物。人が人らしく生きるために必要な夢。心に描いたサンクチュアリに縋りつくための一本の細い糸。

誰しもが理想を叶えるために自分なりに頑張っている。努力の大小がどうであれ、必ず人は理想を目指す。よりよい人生を手に入れようとする。かつては僕もそうだった。
だけれど。せっかく蒔いた種子も、土壌が腐っていれば芽吹きはしない。地中に巣くった毒が種を蝕み生命を積み取る。そこでは何も育たない。いやらしい毒が先端をぬめらせる棘だけが、地から顔を覗かせ、希望の種子を今か今かと待ちうけている。毒に侵されぬかるみとなったかつてのユートピアは、ディストピアとなって久しい。

そうして僕は思う。そもそも自信なんてモノは、欺瞞に満ちたこの世に生きる人間にとってただの幻想に過ぎないのではないのか、と綴ったところで、何を言ってるのかちょっと状態に陥り思考停止。ピープ音。ぴー。
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共通テーマ『秋』

 その幼子は秋といった。頬をピンク色に染めてにこやかに、種種雑多な花や樹木が立ち並ぶ自然公園の中を、父と母に挟まれてあるいていく。初秋の昼日中、心地よい木漏れ陽と、時折吹く風に緑がざわめていた。
 母が言った。あれがコスモスよ。父が言った。綺麗だろ? 両親が口々に言った言葉は、しかし幼子には届いていなかった。つと顔を上げ、中空の辺りに目を彷徨わせながら、耳をすましている。どうしたの、と母が問うと、幼子は何か聞こえる、と呟いた。両親は顔を見合わせ、幼子と同じように、辺りに耳をすます。すると、かすかに鈴の音に似た囁きが聞こえた。父が言う。何の音だろう? 母が言う。鈴虫じゃないかしら?
 そのとき、幼子が目を輝かせて、コスモスの根に近いところを指差して、こう口ずさんだ。
「ちいさいあ~き~み~つけた」


 その少女は秋といった。手には刷毛とペンキ缶持ち、汚れないよう頭巾とエプロンを付けた姿に若干の羞恥を感じながら、長大な看板を前にして、半ば途方にくれていた。少女の周囲では人や物がごったかえし、かまびすかしい。
 少女は思う。なぜわたしがこんなことをと。たった一日休んだだけ。なのに間の悪いことに、その日は文化祭の役割を決める日だった。非常なる欠席裁判の翌日、告げられた判決を基に、少女はここに立っている。
 少女は裁縫が得意だった。趣味だった。本当なら、その特技を生かして、衣装係として存分に腕をふるっていたのに。沸々と怒りがこみ上げてくる。気の合わないクラスメートの顔がいくつか脳裏を過ぎった。ほくそ笑んだその顔を断ち切るように、少女は腕をふった。白いキャンパスに紅が散る。怒りにまかせて右に左に刷毛を走らせ、少女が息をついたとき、背後からクラスメートの声がした。
「なにこれ?」
 少女は皮肉な笑みをうかべてこう言った。「なにって、芸術よ」


 その紳士は秋といった。古びた文庫本に向けられた目はそわそわと落ち着きがなく、傍目にもその姿は本を読んでいるとはとても見えない佇まい。ジャズが流れる小洒落たカフェに、もう一時間も居座っていた。
 小洒落たマスターが入れた珈琲を、これまた小洒落たウウェイトレスが足音高く運び、既に三杯目を向かえようとしている卓に置いた。紳士はそっとカップを取ると、ちびりちびりと飲み、湯気で曇った黒縁眼鏡を三度拭う。
 茜色に染まった夕陽が窓から差し込み、紳士の顔の陰陽を浮かび上がらせた。緊張に固く結ばれた口元。張り詰めた頬を流れるひとしずくの汗。目はきょろきょろと忙しない。それは何かを待っている人の顔だった。
 紳士は眼鏡をかけ直すと、再び文庫本へと目を走らせた。しかしその目は一向に定まることなく、窓外をみやったり、腕時計にいったりと、やはり忙しない。その様子を、横目でちらちらと盗み見ていたウウェイトレスはこみ上げてくる笑みをかみ殺すことに必死だった。
 時計の針は亀のようでありながらも、着実に時を進め、夕食の頃合となり、ウウェイトレスは紳士が夕食をとるとは思っていなかったが、職業的義務感から伺いをたてにいった。
「何かご注文はありますでしょうか」
「いや、結構。そろそろお暇しようと思っていたところでね。それにしてもここのカフェはいいね。おかげで読書も捗った」
 紳士がそう告げるやいなや、ウウェイトレスはクスクスと笑い出した。
「なにがおかしいのかね?」
「だってお客様、その本、逆さまでございますよ」
 紳士はつかの間呆然としたあと、かっと顔を紅潮させ、そそくさと店を出ていった。


 その老人は秋といった。鼻をつく消毒液と微かな糞尿のにおいが染み付いた老人ホームの病室、その一角で、朽ちかけた木を思わせる老婆は腹を立てていた。誰もきやしない。薄情な親不幸ども。
 この日は老婆の誕生日だった。寝台の上にはケーキなどの食べ物がところ狭しと並べられている。下半身不随になり、老人ホームに入居してから、初めての誕生日。しかしそれが老婆の憤怒の源ではなかった。誕生日など、老婆にとってはまた一つ歳を取ったというだけのことに過ぎず、祝う気になどなれなかった。奇しくも同じ月日に生まれた孫の誕生日という意味合い以外は。
 老婆は実の娘のこの仕打ちに腹の虫が収まらなかった。目に入れても痛くないほど可愛がっていた孫。その成長の記念たる日に見合わせないとは。孫を思うと胸が疼いた。勝気な家系のせいか、悪戯好きのわんぱく坊主だったが、男の子はそれぐらいのほうがいい。孫を思うたび、暖かい慕情が溢れ、何の連絡もよこさない娘に対しては冷たい怒りがとぐろを巻く。
 老婆はやにわに、目の前の食べ物に躍りかかった。怒りを発散させたかった。なにかにぶつけたかった。餓鬼のごとく咀嚼しては飲み込み、貪り食った。
 全てを平らげたあと、老婆の頬を涙が伝った。誕生日という記念の日に、老婆があげた声はうれし泣きではなく、すすり泣く擦れただみ声だった。
 明くる日。いつものように看護師が朝の世話をしようと部屋に入ってくるやいなや、おはようの挨拶は途中で途切れ、笑顔は途端しかめ面となった。
「これは、一体どうしたんです?」
 老婆の病室は糞尿塗れになっていた。シーツや壁などの至る所に染みのアートが出来上がり、下水道もかくやな激臭が辺りを満たしていた。
「食欲の秋だよ。見事だろ?」
 看護師はふんと鼻をならし、外へ出ていった。そのあからさまな態度に、老婆は満足げにひとつうなずいた。
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ある種の熱に浮かされ連綿と綴った一織りの散文

夢を見ていた。完璧な自己の世界で僕の言葉は魔法であり、真理であった。僕が口上すれば人々はふれ伏し、崇め、見上げるその目には畏敬と畏怖が混じりあい、奇妙な輝きを帯びていた。よくよく見て見ると、その虹彩の根源は僕の姿だった。煌めいていた。自然のどんな美しさよりも、鮮やかに。心を射抜く珠玉を、欲しいと思った。だから目を抉った。叫び声がした。苦痛に身を震わせる姿があった。可哀想だとは思わなかった。ひどいことだとも思わなかった。傷つけぬようにそっと、慎重に抉りだす。手のひらに震える目をつぶさに眺めたあと、一握りにつぶした。気味の悪い感触がした。握ったこぶしを開いて見るかどうしようか、ひとしきり悩み、僕は目をそらして汚らわしい物体を放り投げた。

Category: 日想  

消費される文章の在るべき場所

文章は鏡のようなモノだ。一卵性双生児でも完璧な類似はあり得ないように、完全なる同定は不可能である。必ずその人その人の顔が浮かび、感性が浮き彫りになる。個性の鋳型。

言語性多重人格なる言葉があるが、そんなモノは言葉のまやかしに過ぎない。鏡の中で角度を変えれば見えてくるモノもおのずと違うように、新たな一面を見出したとしても、個性という多様性の枠に収まれた一幅のぶれに惑わされているだけだ。個性とは簡単明瞭に図れるモノではない。

しかしそうは言っても、魅力がなければ誰も見向きもしないのが現実だ。興味を持たれなければ唯一の個性も車窓を流れる風景と同じであり、ただそこにあるモノとしてしか認識されない。せっかくの鋳型も乱造された人形と一緒で、一つ一つの個性、言わば魂にまで目を向けようとはしない。

人の目に触れる場所にある文章というモノはデフォルメされた個性である。苦味や辛味といったスパイスを盛り込み、素材の味をどうにかこうにか粉飾しようとする。誰かに見て咀嚼して欲しくて、素材そのモノの味を楽しんで貰おうとは決してしない。無意識の内にレシピを作り、何かしらの味付けをほどこす。

では素材そのモノの文章とはどういった文章か。作為のない文章とはなんぞや。

個性に純粋たる文章とは、脳裏を縦横無尽に駆け巡る恣意の奔流を綴った言葉の流れのことである。論理性や明確さといった作為に満ち溢れた設計図を跳ね除け、あくまで自然そのままの心の混沌を綴ったモノこそ、個性に准じた文章と呼べるのではなかろうか。

写実ではなく前衛のような文章こそ、各人が持つ個性を純然に醸し出す最高の方法であると僕は思うとともに、そんなモノ誰が読みたがるのかとの疑問が渦巻く午前五時。
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塵あくた

ネット上でかしまし娘を気取ってもリアルで存在感の無い人間は所詮空気のようなモノで、至る所に存在はするが、意識して見られる事はない。それでも十分な酸素を含んでいれば絶えず呼吸をおこなう人間にとって必要欠くべからざる存在になり得るのだろうが、はたして僕の文章に呼吸するに足る酸素はどの程度含まれているのであろうか。
栄養としての文章。読んで何かを得られる文章。ほんの一ミクロンでも心の天秤を傾けさせることができたのなら、それは栄養のある文章なのだろうか。縦横に張り巡らされたニューロンの雑踏に文章という名のインパルスが駆け巡る様。しかしそのインパルスはただ表層を滑るだけの一方通行に過ぎず、脳という複雑怪奇な街に住み付くことはないだろう。なにせほんの一ミクロンの傾きに過ぎないのだから。言ってみればバケツの中に残った一滴のようなモノで、そこに在って無きが如き儚い代物。砂漠でドライアップ寸前の放浪者にとっては一滴の水が何よりも代えがたい代物だとしても、潤沢な泉のぬるま湯に絶えず浸かっているような満ちた人間には、路傍の石よりも意に介さない代物でしかない。
そんな代物がネット上には掃いて捨てるほどあり、満ちた人間にとってゴミも同然なそれらは邪魔なだけで、むしろ目にすればストレスを感じるのではなかろうか。僕の文章を読み、何かを得られるとすれば、それは純然たるストレスに他ならない気がしてならない。
例えば何かを検索して幾万ものヒット数を叩きだされたらイラっとするように、僕の文章が誰かの邪魔をしている可能性は十分にある。目障りな僕の文章はその誰かさんにとってはネットに蔓延る害虫だろう。検索範囲を絞って駆除しても消えうせはしない検索ウィルス。
邪魔をしたいと思って書いた文章ではない。しかし多数の人間にとっては邪魔でしかないネットデブリを量産することは良識に反することのように思えるのだ。
そうして堂々巡りを繰り返した結論は、いつものごとく、筆を折れ、だった。
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視界に犬がいた。そいつはここ最近、人生の侘しさを埋めようとしきりにメスを追いかけていた。こび、へつらい、おもねる。その姿は浅ましいの一言に尽き、その無駄な努力が実を結ばないと心の底では思っているくせに、右へ左へしっぽをふる。
ピエロと呼ぶのもおこがましい、多分この世で最下層の犬。それが僕であるということを再認識したのは、つい先日エロチャットで獣欲の赴くままエマージェンシーを黙殺してビデオにその醜態を晒したときだった。メスが放った、たった一言の侮蔑。それまでの嬌声が一変、がさつな蔑みの声が、この一夏をうかれポンチに過ごしていた原因であるところの自我妄執から解き放ち、晴れも雨もない抑揚を欠いた現実へと引き戻した。
そうして今、打鍵の不規則なリズムを眼下に、モニター越しに映る猫背のおっさんの侘び加減は異常この上ないモノである。

考えてみると何ともくだらないことに時間を費やしたモノですね。笑わせんな、じじいが今更なにを求める?
これが十年前なら話は違った。その頃の僕なら、まだ十分に巻き返せるポテンシャルがあった。しかし、無常に過ぎる歳月の牙が、肉体と精神を衰えさせ、僕から多分唯一の武器であった若さを奪った。と、こんあ事を書いている時点で、もう終わってるんですよね。あの頃は云々。歴史にifがないように、個人にもifはない。「もし」を語ればキリがない。ああすればよかった。こうすればよかった。くだらない泣き言。振り返りたくなる首を前に見据えて、歩いて歩いて歩き続けるしか道はないのに。

そう、分かりきっていること。な、の、だ、が。しかし、今の自分を受け入れ、前に進むというこの難行をどのようにして遂行すればいいのか。難題である。命題である。

人間は他人と比較して自己を確立する生き物だ。他人なくして人は人らしくいられない。社会に生きる人としての本質。その欲求をどうにか上手い具合に自己抑制し、精神の安定、心の調和を図らねばならない。自己の変革。しかしそれにはとてつもない苦労が必要だろう。そこまでの気骨を、僕が持ち合わせているかと言えば心もとない。ではどうするか。残された道は唯一つ、社会性を捨てるしかないのではなかろうか。禁欲。口で言えば簡単極まりないことであるが、さて実行となると?

これまでの無為と言っていい人生の中で、僕が体得した真理が一つある。欲は身を滅ぼすということ。

求めるから辛くなる。求めるから足掻き苦しむ。ならそんなモノ捨ててしまえばいいんだ。

そう何度も言い聞かせつつも、心のどこかで、やはり何かを求める自分がいる。短いようで果てしなく長いように思える今生の世知辛さを紛らわすために。僕は、縋るモノがほしい。

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