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先人に倣う

憎まれっ子世にはばかる、という言葉が示す通り、この世の中は嫌な人間で満ち満ちています。自分と良い関係を築けている、自己にとって良い人間なんて両手で足りる、それが大多数の人間の真実なのではないでしょうか。ヤなヤツとはできるだけ会いたくはないでしょうし、自分の過去の恥部を見知っている人間となると尚更でしょう。歳を重ねる度に、自分にとって都合の悪い人間のリストは連なっていく。嫌悪の多寡はどうであれ、リストに載るような人間ともう一度接点を持ちたいとは思わないのが当然でしょう。

が、しかし。偶然とは怖いモノ。つい先日、これは言えないし思い出したくもない、僕の最も恥ずべき部分を知る、ある人と久方ぶりに再会を果たしてしまったのです。出来れば避けて通りたかった人生の分かれ道。遭遇したくはない人との出会いに、どれだけ注意を払っていても、エンカウントしてしまうときはしてしまうモノなのだ、ということを身に染みて実感しました。あぁ、この世に絶対はないんだな、とも。
いくら強度の強いトヘロスをかけようと、何万分の一の確立で出会うときは出会ってしまうのです。難敵に出会ってしまったらどうするか。これがゲームなら逃走する事が無難でしょう。しかしこれはゲームではないのです。現実という、非常をもってなる世界なのです。ですから、間違っても「逃げよう」などと考えてはいけません。出会って五秒でトンズラ、なんて事をしてしまえば、知人から知人へと、どんな噂が流れるやしれません。想像してみてください。

「そういえば久しぶりにあいつに会ったけど、すぐにそそくさと逃げてったぜ。三十になって、少しはあいつもマシになってると思いきや、相変わらずしょうもないヤツだったよ」

なんて言われているかもしれないのです。想像するだにあんぐりぃ。断じて許せる事ではありません。
でたーみねーしょん。断固たる決意で、そんな可能性を持った未来など握りつぶさねばならないのです。

僕は戦う事を選択しました。眉間に皺を寄せようと押し寄せる嫌悪感をどうにか押し戻し、気を抜けば舌打ちを鳴らしそうな口元に笑みを浮かべる。にこやか、とは言えないまでも、悪感情を相手に悟られないぐらいの仮面を被ることに成功した僕は、先制攻撃を仕掛けました。戦いは先手必勝です。機先を制し、後顧の憂いを絶たねば、先の安眠は約束されない。挨拶もそこそこに、いかにも興味ありげな様子で、こちらからクソヤロウの近況を聞いてやりました。栄達とはいえないちっぽけな出世をさも栄達したかのように語るクソヤロウの心底どうでもいい話に耳を傾けながら、ふと大問題が目の前にぶら下がっていた事に思い当たりました。当然聞かれるであろう自分の近況をどう話せばいいのか、という問題です。仮定の未来で知人が言ったように、僕は相も変わらずしょうもない人間なのですから、事実だとしても言えるわけがありません。それでは戦う意味がないからです。僕は悩みました。皺の無い脳みそに皺を刻みつけるが如く。しかし、知恵熱を出しそうなほど頭脳をフル回転させても、これといって武器となるモノは見当たりません。嘘で真実を糊塗しようかなとも思いましたが、その場限りの嘘などすぐに見破られるに決まっています。どうしよう。どうすればいい。どうしたらいいのか。悩みに悩んだ挙句、パニックに至った僕がとった行動とは。


戦国の荒々しい時代を生き残った有名な大名たちには、共通したある一つの才能がありました。忘れる、という才能です。下克上の世に、裏切りは日常でした。義よりも利を重んじた世情で、うらみつらみは邪魔なだけなのです。昨日の恨みを忘れて、明日の命を買う。そうして生き残った戦国大名たちにとって、忘れるという特技は必須の要素だったのです。

だから僕も忘れることにしました。どんな行動をとったのか、今では思い出せません。連綿と織り成す記憶の回廊の一部は黒く塗り固められている。今後、僕がその一部を修復することはないだろう。
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Comments
Edit気持ちが高揚しちゃってます!
ちゃんと書き込めていたらいいんですが大丈夫でしょうか?はじめての書き込みなので少し心配です(汗)

あの…ni-toさんの言葉にすごく引き込まれました、私は伝える作業が下手なもので心底羨ましいです!
自然と好きだなと思いました。

本屋さんでたまたま手にとった本がヒットだった時のような感じというのか(上手く言えずすみません)
いまは幸運から見放されてしまっているかのように、泥沼にハマり込んで抜け出せない感じが続いてしまっていて…。

だけどそんな今だからここに来れたのかもしれないで
す。
もし、もし良かったら私の悩み少し聞いてもらえないですか?
Edit>ゼリーさん
お返事、遅くなりまして申し訳ありません。
はっきり申し上げて、僕は他人の悩みにお答えできる人間ではありません。的確なアドバイスなんて、とてもできない。僕が出来うる事とすれば、無責任な応援、励ましの言葉を述べるぐらいでしょう。
ゼリーさんが本当にその悩みを寛解させたいと思うのであれば、しかるべき場所、人に頼るべきだと思います。
申し訳ないのですが、無責任なエールしか送れません。
頑張ってください。がんばって。
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