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共通テーマ『異世界』

目は口ほどにモノを言う、という言葉がある。

こんなことがあった。

夜遅く、コンビニにでも行こうと思い、エレベーターに乗ると、すぐ下の階から一人の若い女性が乗り込んできた。寝巻きのような、ラフな格好をしたその女性は、ひどく嫌な感じがした。乗り込むとき、相乗りが男の僕だと分かると、警戒心丸出しの顔をしたからである。そのうえ、なにかされるとでも思っているのか、彼女の立ち位置はやけに隅っこなのだ。こんな露骨に危険とみなされたのは初めてである。
少々むかついたので、横目でじろじろと観察してやると、薄手のパーカーにショートパンツとサンダルをつっかけた肢体は、思いのほか肉感的で、欲情をそそるモノだった。これ幸いとばかりに男の本能むき出しで目の保養に勤しんでいると、視線に気づいたのであろう、振り返った彼女の目とばっちりあってしまい、慌ててそらしたあと、妙にうろたえてしまった。盗み見ていた疚しさ。見咎められた恐怖。当然、彼女の目は怒りや非難の色を浮かべているのだと思いきや、まるで違っていたから。
彼女の目は、怯えていた。それがなにより、僕をうろたえさせたのだ。



なにが彼女を怯えさせたのだろう?見知らぬ男と二人っきりの、狭い閉鎖空間で、じろじろと舐られれば不愉快だとは思う。が、怯えるまで怖がるようなことだろうか?なにかあったのだとしか思えない。なにか、怯えるようなことが。



以前、性犯罪被害者にスポットを当てたドキュメンタリー番組のなかで、ある被害者がこんなことを言っていた。
「男の人を見かけるたび、あのときの光景が脳裏に蘇ってきて、しばらくのあいだ、外に出ることが出来ませんでした。今でも、男の人をみると、思い出すことがあります」
ある日突然、男という男が恐怖の対象に変わる。悪夢の記憶を呼び覚ます呼び水となる。被害者の目に、世界はどう変わって映ったのか。

犯罪加害者の家族にスポットを当てたドキュメンタリー番組では、ある加害者家族がこんなことを言っていた。
「事件のあと、住所や実名、顔写真まで週刊誌やインターネットに晒されてしまい、外へ出ると、誰もが知っているんじゃないか、誰かにあの事件の加害者家族だと指摘されるんじゃないかと、恐ろしくてたまりませんでした。今でも、ふとした折に、誰かに後ろ指を指されるような気がして怖くなります」
ある日突然、世間という世間が敵に回る。安全だと思っていた社会が、街が、粗暴な裏の顔へと反転していく。加害家族の目に、世界はどう変わって映ったのか。

逃れようのない暴力が、それまでの人生を一変させる。ありふれた、何気ないはずの日常の一コマが、突然、恐怖に震える対象になる。何かを見るたび。誰かの視線を感じるたび。こころに産み付けられた不安の卵が、一斉に孵化し、ざわざわと這い回りだしては、怖気をふるう。その目に世界は、どう変わって映っているのだろうか。


あの夜の、エレベーター。記憶の中の、逃げるように降りていった彼女の後姿に、暴力の痛々しい爪痕を視たような気がして、なんだかきまり悪くなったけれど、考えすぎかもしれない。本当はなんてことない理由なのかもしれない。いや、本当に悲惨な目にあって、僕という存在が、忌まわしい何モノかにみえたのかもしれない。本当のことは分からない。

彼女の目は、今、どんな色を浮かべているのだろうか。
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