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スオンジーの森

 荒れ狂う風に飛礫となった雨が霰と舞い、スオンジーの森を襲う。深更の空は漆黒に染まり、時折嘶く雷光が、森の中にぽつんと立つ屋敷を浮かび上がらせた。

古く厳めしい屋敷は暴風に軋み、ミシミシと悲鳴を上げ、窓という窓はカタカタと踊り、壁面に蔓延る蔦が、木造の屋敷を飲み込もうとしているようであった。

 屋敷の主人、スオンジーは、いつになく荒れた雨模様に、鋭く舌を打った。突風に煽られた小枝が寝室の窓を破り、お気に入りのローブを雨に濡らしたためだった。節くれ立った身体に活を入れ、ベッドから起き上がると、シーツを雨具代わりに身にまとい、風がのたまう窓に歩み寄った。

 手早く木造の内窓を閉め、ベッド脇の小卓に据えられた燭台に火を灯す。蝋燭の儚げな光が殺風景な室内を照らし、暴風に嬲られた惨状を露わにした。
ベッドははちゃめちゃに捲くられ、黒ずんだ雨が斑に模様を残している。
小卓に置いておいた水瓶は、この屋敷が建てられて以来張り替えられていないくすんだ絨毯に倒れ、カーテンは
ぐっしょりと濡れそぼり、ポタポタと水滴を垂らしていた。

「忌まわしい雌鳥をようやっと始末したと思えば、その次の日に雌鳥の手が必要になるとはな。くくくく、なんたる皮肉よ」

 蝋燭の淡い光に照らされた老人の顔は奇妙な愉悦に歪んでいた。狂人特有の目の輝きが蝋燭の火を反射し、キラキラと瞬く。スオンジーはひとしきり思いに耽ると、燭台を持ち、幼少の頃に負った怪我の所為でびっこを引く足を前へ、廊下へと向かった。

暗い廊下に薄光が走り、闇を取り払う。ぼんやりと浮かび上がった床は所々朽ちかけているようで、スオンジーの歩みとともに、ぎしぎしと悲鳴を上げた。台所を抜け、居間へと向かったスオンジーを待っていたのは、若く美しい女性だった。

一人掛けのソファに深々と座り、物憂げな目が、スオンジーを見返している。

「おうおう、ここにおったのかハンナ。今夜はすさまじい暴風雨だぞ。お前の口のように喧しく騒ぎ立ておる。
止める手立てと言えば、ただ嵐が過ぎ去るのを待つのみだ。どうだ、わしがいつもどんな気分でお前のわめきを
聞いているか、分かったか? ん、どうなんだ」

 スオンジーは徐々に激昂しながら、ハンナに詰め寄る。蝋燭の光がハンナを照らし、胸に生えたナイフが、ドレスを血で染めている姿を浮かび上がらせた。

「なんだ、その目は。死んでなお、わしを馬鹿にするつもりか!」

 スオンジーは、ハンナの心臓に突き立ったナイフを掴むと、グリグリとえぐり込ませた。

「お前の浮気にわしが気づいていないとでも思ったか? ええ? 召使いからわしの伴侶にしてやった恩を仇で返しおって、この薄汚い売女めが。知性の欠片もない頭で、少し待てば遺産を残し死ぬと値踏んだのだろう? 残念だったな、能ある鷹は爪を隠すという通り、わしはお前の魂胆を見抜き、泳がせておったのよ。
最初はごく小さな疑いの目は、見る間に毒々しく膨れ上がりおったわ。どうした、言い返せんのか? そうよの、全て事実なのだから。くっくっく、そう寂しそうな顔をするでない。お前の愛しい愛しいあの間男も、すぐに後を負わせてやるからな。くくくくく、はははははは!」

 スオンジーは愉快で溜まらないといった様子で、哄笑を響かせ、しまいには悪い足をくねくね、踊り始めた。その後ろで、ハンナの死人の目に、鈍い光が宿り、ゆっくりと腐り始めた身体を浮かし、スオンジーの首に、その御手を伸ばし――〔了〕
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