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ワイスレ参加作品

 夕陽を背景に、町の至るところに湯気が立ち、粗野な男たちのドラ声と、遊女たちの嬌声が彩る鄙びた温泉町は、
闇が寄る毎に、活気付いていくようだった。夜の蝶達が振りまく燐粉に、男達は吸い寄せられ、野卑た笑い声を響かせる、
不夜の町。その喧騒を離れた河川敷に、一組の男女が、遊町に不釣合いな雰囲気を醸し出していた。
文壇の貴人と、うら若き女郎である。
 男はいかにも文人肌といった痩せぎすの身体を襤褸のような浴衣で包み、どこか近寄りがたい印象を与える気難しい顔は、
寄り添う女子ではなく、夕焼けに染まる川面へと向けられていた。その男の横顔を見つめる女子は、遊女らしい、
艶やかな浴衣に、まだ幼さの残る姿態を隠し、可愛らしい顔が、朱色に染まっていた。
「また、いらしてくれますか」
 女子のどこか諦感にも似た声は、俯くとともに、先細りに消えていった。
 男は黙したまま。時折吹く風が、夕陽に彩られた水面をさざめかせる幻想的な様子を、ただじっと見つめている。
俯いた女子のお下げがゆれ、うなじに、一涙が浮かび下った。
「もう一目、会いたい。いつでもよろしいのです。いつか、また来ていただけますか」
 女子の祈るような、せつない声音に、男は眉間に皺を寄せ、厳しい顔のまましばし思案に耽っているようであったが、
女子の潤んだ眼差しに観念したのか、コクリと、小さく頷いた。
「嬉しいっ。いつまでも、お待ちしています」
 女子は顔を輝かせながらそう言うと、名残惜しそうに腕を放した。
「約束、ですよ。また、いつか、必ず」
 言い終えると、女子は踵を返し、騒がしい物音のほうへと帰っていく。男は、お下げの揺れる女子の後姿を、目を細め見入っていた。

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