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日記・小説

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お題「玉手箱、ポスト

 僕の家から五分ほど歩いたところにある、公園の一角には、もう使われていないポストが
ある。赤い塗装は所々剥げ、むき出しの鉄を晒したそのポストには、ある噂があった。
 事の始まりは僕の友人であるAのふとした呟きからであった。
「公園のポストに、夜な夜な近づいては何かをしている怪しい人がいる」
 Aの家は公園の真向かいで、二階にあるAの部屋からは公園が見渡せる。当然、ポストも
視界に収まる、といった構図だ。かぐる日、Aは受験勉強もひと段落ついたところで、ブレイク
タイムとしゃれ込み、コーヒーを飲もうと思い立ったそうだ。階下のリビングにいき、
コーヒーメイカーから香り立つ濃厚なブラックコーヒーを入れ、自室に戻ったAは、窓辺に
よりそい、空を眺めていた、という。そして、Aは見てしまった。公園の一角、物置小屋の
横にぽつんと置かれた古びたポストに、誰かが近寄り、なにやら怪しげな動きをしているところを。
一体、何をしているのだろうと興味を引かれたAは、その怪しげな人物に気づかれぬよう、
カーテンの陰から目を覗かせ、窺っていた。最初は、ただの酔っ払いだとAは思ったようだ。
なにせ、身体がゆらゆらと揺れ、足元が定まらない様子だったそうだから。そうしてしばらく
覗いていると、その怪人物はポストを開け、中から何かを取り出した、という。
 Aからはその取り出したモノがどういった代物か、ようと判別できなかった。ただ、それが
どうやら箱のようなものだと分かったのは、怪人物がその物体の上部を上に上げるような動作を
したからだった。そこからは、夢や幻、といった類の胡散臭い話になるかもしれない。
なにせ、Aが見たのは、その箱のようなものから黒い煙が立ち上り、怪人物を包んだと思った
瞬間、その怪人物が消えうせた、というのだから、おかしな話である。
しかし、長年の友人であるAが、そのようなくだらない嘘をつくとも思えず、僕は半信半疑ながら、
Aの話を笑い飛ばした。
 それからしばらくしてからの、学校からの帰り道、いつも僕はその公園の前を通る
(Aといつも一緒に帰っているのだから当たり前の話)のだが、その際、ちょっと寄って調べてみようと、
Aとともに公園の中へと足を踏み入れた。
 この公園は、公園といっても小さなもので、砂場と滑り台がちょこんと申し訳なさそうにあるだけで、
あとは直径10メートルもない広場があるだけだ。その広場の隅に物置小屋があり、さらにその横隅に、
例のポストがある、といった感じである。
 ポストの前に立ってみて、僕はこのポストのささくれぐあいに少し嫌なものを感じた。
それはAの話を聞いたせいかもしれない。だけど、どこかそのポストには、なにか得体の知れない存在感の
ようなものを、見るものに感じさせるような不気味さがあった。
赤い塗装が所々はげ、むき出しの鉄を晒したそのポストは、一見、なんの変哲もない、もう用済みのポスト
のように思えたが、ポストの中央にある、管轄地域を示す欄には、こう書かれていた。

『○○町~桃源郷行き』

 ○○町とは、言うまでもなく僕らが住む町の名前だ。しかし、桃源郷とはなんなのだろうか。
そのような地名が実際にあるとは思えないし、また、僕らが知り得るかぎりの地名を思い返してみても、
桃源郷なんて地名はなかったはずだ。じゃあこれは一体なんなのか。よく見てみると、桃源郷行き、と
書かれた文字は比較的最近書かれた様子で、まだ風雨に晒された文字によくある、ささくれた部分は見当たらなかった。
だとすると、これは誰かが上から書き直したのだろう。でも、一体何のために? あるはずのない場所を
示すことに、何の意味があるのだろう。普通なら、ただのいたずらで済ますようなことだ。
しかし、いたずらにしてはどこか引っかかるものを感じた。それは、Aから聞いた話のせいかもしれないし、
そのポストが放つ存在感のせいかもしれなかった。とにかく、僕はそのいくぶん真新しい文字に、違和感を感じたのだ。
それはAも同じだったようで、しきりに首をひねっている。とにかく中を調べてみようと、
Aが言ったので、僕はポストの裏側に回り、中を開けようとした――のだが、しっかりと錠が締まっているようで、
取っ手のレバーはびくともしなかった。
これではどうしようもない。僕はもう半ば興味をなくし、Aに帰ろう――そう告げようとした矢先、Aが突拍子もないことを
言い出した。
「……手紙、出してみようかな」
「はあ?」と、僕はAの行為に呆れたものの、Aの顔には真剣な表情があり、ちゃかせない空気を感じた僕は半ばやけくそでこう言った。
「なら、出してみれば? 時間の無駄だとおもうけどね」
 僕の言葉に、Aは軽くうなずくと、そうしてみる、といいざま、足早に公園の向かいの自宅へと歩き去っていった。
僕はAの様子に呆れるとともに、Aが見せた真剣な表情が物語る、使われないポストに手紙を出すという行為に、
どんな意味があるのか、不思議に思うだけであった。

 明朝、Aは挨拶もそこそこに、手紙を出したことを僕に告げた。その顔はどこか期待を思わせるわくわく感があり、
僕はまた妙な気持ちになった。手紙が届くというあてでもあるのかと、Aに聞いてはみたが、Aは思わせぶりな顔を
におわすだけで、何も言わなかった。その秘密主義に、僕は軽い苛立ちを覚え、それからはあのポストがらみのことは、
自分からは一切口に出すまい、と決意した。

 平凡な日常、繰り返されるかのような反復行動。あれから僕の日々にはこれといって目立つような出来事はなく、
Aともあのポストの話をしないだけで、いつもと変わらぬ日々を過ごしていた、そんな矢先の出来事だった。
Aが失踪したのは。
 Aが消えた――そのこと自体は、最初はただの親子喧嘩の末の逃避行だろうと高をくくっていたが、それが一週間、
二週間と続くうちに、ただならぬことが起きたのだと、僕にもようやく実感できた。
 まず頭に浮かんだのは、あのポストのことだった。Aは手紙を出し続けていたのだろうか? そのことを
調べようと、A宅におじゃまし、Aの部屋を見させてもらう機会を得た。
 Aの几帳面な性格が表れたような、とてもかたずいた綺麗な部屋は、その主人がいないことを嘆いているのだろうか、
どこか侘しさを感じさせた。その感覚に僕はどこか嫌な気持ちになり、それを吹き飛ばすように、
整理整頓された机をかき回し、探した。しかし、ない。どこにも、手紙のようなものはなかった。
だが、考えれば当然のことだった。Aがあのポストに手紙を出したといっても、それが届くとか、ましてや返信が
返ってくるなど、あり得ぬことなのだから。じゃあ、Aはなぜ、どうして失踪なんてしたのだろう? 
 帰り際、Aの母親にAの近況を聞いてみたところ、なにか問題があったとか、そういう風なことはなく、
いつもどおりのAだった、という。しかし、なにやら毎月のように送られてくる手紙のことを、私たちに見せる
ことのないよう、ひどく警戒しているようだった、と話してくれた。
 帰り道、僕は不気味な懸念を押し殺すことが出来なかった。あのポスト――Aが手紙を出したあのポストからの
返信の手紙が、Aに届いていたのだろうか? しかし、Aの部屋にはそのような類のものは見当たらなかった。
Aが届く毎に始末していたのだろうか? あのポスト……とにかく、Aの失踪には、あのポストが関わっていると、
僕はあたりをつけた。そしてその日から、僕の情報収集が始まった。下は幼稚園児から、上はおじいちゃんおばあちゃんまで、
あの公園によく出入りしていると思われる人々に、僕はそれとなく聞いて回った。あのポストのことを。
 それによると、あのポストがいつからあったのか、誰も知らず、気づけばそこにあったのだという。
たしかに、知らぬ間に気付けばそこにあった、といったようなことは、往々にしてよくあることだとは思う。
例えば、通学路の大通りには、いつの間にかこじゃれたカフェが出来ていたし、クラスメイトのだれそれが
だれそれと付き合った、破局した、というようなことは、普段目にしていないだけで、注意を向ければあることに
気づくものなのだ。ポストも、その類なのかもしれない。しかし――。

 僕はいま、あのポストの前にたっている。辺りはすでに暗闇に包まれていて、公園のちっぽけな街灯では
公園全体を照らすなんてことは不可能だった。薄暗い公園の済みに置かれた赤茶け、錆びれたポスト。
僕はいまそこに、手紙を投函しようとしている。考えれば馬鹿な話だ。使われていないポストに手紙を投函するなど。
しかし、僕は試してみたかった。いや、試さざるを得なかった。Aはなぜ消えたのか、Aはなぜ手紙を投函したのか。
その答えが、手紙を投函することによって明かされるんじゃないか、そんな期待があったからだ。
人っ子一人いない、薄暗い公園の隅にたつポストと僕。これから起こることに、半ば期待と恐れを抱きながら、
僕は手紙をポストに投函した。そして僕は、決して踏み入ってはいけない世界へと、足を踏み入れてしまったのだった。

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