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散文誌

日記・小説

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お題「許す」

――私がコレと呼ぶ男と話すようになったのは一月前のことだった。
 コレは俗に言うストーカーと呼ばれるモノで、金髪碧眼の私に興味を抱いたのだろう、ク
ラスに馴染めない私を遠くから観察していた。絶対に接触はしてこない。なぜなら、コレも
いじめられっ子で、わたしもいじめられていたからだ。
 
――私はアメリカから日本に渡ってきた外国人で、半年前に私立香坂高校に編入した。
 父がアメリカ人、母が日系アメリカ人の子供として生まれた私に、アジア人的な外見の特
徴はなく、見た目は完全に白人であった。それは母が日系とはいっても、クオーターだから
だろう、と父が言っていた。事実、写真の中の母は日本人には見えない。白人とアジア人の
混合が生み出したアンバランスな人種だ。しかし、日本語は上手だった。それは母方の祖父
の影響もあり、私は幼い頃から日本語を教わってきたのだから、それも当然である。けれど、
言語を扱えるからといって、まったく違う環境の同い年の人間たちとコミュニケーションを
上手にとれるかといえば、そうでもない。第一に外見の違い。これは自惚れではなく、客観
的事実としての自己評価だけれど、私は美しいのだ。そのおかげで、わたしは転校して数日
はちやほやとされていた。しかし、知ってはいても、使い慣れない言語と、アメリカ人とし
ての仕草と日本人としての仕草の違いがハナにつくと、一部の女子が私の美しさからくる嫉
妬からだろう、やっかみだし、いじめがはじまった。
 最初は小さなことだった。
 教科書に悪口を書かれたり、体操着が水浸しになっていたり。彼らは間接的にいじめを敢
行した。
 そして私はそのいじめに抵抗してしまったことで、ピラミッドの最下層へと転落してしま
ったのだ。
 素直さはときに民衆の怒りを買う。私は、自身の美貌に絶対の自信があった。少なくとも、
この学校のなかでは、私が一番美しいと断言できるだろう。その肥大した自意識が、私に言っ
てはならないことを言わせた。
 ブスをブス呼ばわりすると、大抵の者は怒りに顔を染める。それが事実だったとしても。
私にとって些細な諍いが、醜いアヒルの子たちの態度を硬化させ、そして、いじめは直接的
に行われるようになった。
「キモ」
「ばーか」
「臭いんだよ」
 そのような取るに足らない罵倒を無視していると、今度は物を投げてくるようになった。
あるときはチョーク、あるときは黒板消し。それでさえ、私に期待したとおりの反応がない
とわかると、奴らはコレをぶつけてきた。
 コレは私と同じいじめられっ子である。身長はそこそこあるものの、その中身はガリガリ
で体力がなく、イヤらしい口から漏れる言葉は吃音がひどく、聞き取りがたい。顔はにきび
だらけの、一目で嫌悪感を抱くような男だった。
 コレは奴らに囃し立てられ、私に恐る恐る接近してこようとする。私はコレがそばによる
こと自体、イヤだったので、奴らの計画は成功した、といえよう。
 しかし、私がコレの目――ビクビクしながらこちらを窺うコレの目に、慕情のような淡い
光――を見たとき、稲妻のように脳天にある計画が生まれた、と同時に、私は密かにほくそ
笑んだ。なぜなら、奴らに対して、最高の仕返しを思いついたから。
 私は怯えるコレの手を取り、教室の外へと連れ出した。背中には罵倒の声。振り返ると、
コレの怯えに引き攣った顔に、はにかむような表情が一瞬、浮かんだ。
 このときから、私とコレの報復が始まったのである。


――女性にとって、最大の侮辱はなんなのか、私は考える。甘いやり方でネチネチといたぶ
るよりも、一気に最大限の復讐を果たしたい。私が味わった辛酸の何倍もの復讐。それには
どうしたらいいか。答えは既に頭の片隅にあった。やりすぎなんじゃないか、とも思う。で
も、私はちまちまといたぶるような陰険なやり方は嫌いだ。なにより十数人ものターゲット
がいるのだ。やるなら一度きりのほうが面倒もないし楽だ。撮影用のカメラと、人気のない
場所と、コレ。条件は満たしている。私は決意を固めた。あとは、誰を最初のターゲットに
するか。それももう、半ば決まっていた。コレがストーキングしている女だ。どうやら思い
を寄せているらしい。あの女のモノなら、何でも収集しようとするキチガイにほれられて、
あの女も気の毒だけど、自業自得というものだろう。ただ問題は、コレがあの女に対して危
害を加えられるのかどうか、だが、それも多分大丈夫だろう。何せストーカーだ。精神異常
に決まっている。あの女を自由に出来ると説けば、説得はたやすいだろう。従わなければ変
態の所業を暴くと脅すまでだ。一連の復讐を想像すると笑いがこみ上げてくる。私はもしか
すると邪悪な人間なのかもしれない。いや、そうだろうか。むしろ邪悪なのは、人の痛みも
分からずにいじめをして悦に入る女なのではないのか。やはり女は邪悪な存在なんだ。だか
ら私が分からせてやらないといけない。たとえそれが悪魔的行為だとしても。


――「うっ、うっ、うっ」
 使われなくなって久しい旧校舎の一角にある、薄暗い体育倉庫のなかで、人の姿をした一
組の動物が交わっていた。体育用具の放つ独特な臭いと、動物共が放つ激臭が混ざり、混沌
としたその空間に、畜生の浅ましい息遣いと鳴き声が響く。
 私はマットの上で繰り広げられるその光景を見ながら、報復を遂げた喜びを感じるのかと
思っていた。けれど、心にあったのはただ、汚らわしい、という気持ちだけだった。
 ネットなどで見たセックスの模様も、想像していたものと間逆で、ケガラワシイモノに映っ
たけれども、今、眼前に展開されている生の行為は、それを上回るものだった。
 ううう、と、コレがくぐもった声を漏らすと、腰の動きがとまり、あの肉と肉が叩き合う
不快なリズムが終わりを告げた。
 報復の対象となった少女はコレから身を離すと、うずくまったまますすり泣き始めた。浴
びせてやろうと思っていた罵倒の言葉は、喉を通らなかった。ビデオレコーダーを止め、う
ずくまる女に向けて何かいわなければならないのだが、言葉が出ない。なぜか鈍磨する頭に
聞こえるのは、うずくまる少女に語りかけるコレの声だった。
「あっ、だっ、だいじょぶ、ですか?」
 つい先ほど自らの手で少女を陵辱したレイプ魔は、中腰になった腰から奇妙なほど長い男
性器をブラブラさせながら、優しげに語り掛けていた。
 コレの手が少女に触れるたびに、少女はビクっと今できうる最大限の拒絶を示していた。
しかし、コレにはそれが面白いらしく、やたらめったに少女の身体を突き回す。その度に少
女の身体がビクビクと動き、陸に上がった魚のようだった。
 私はやりすぎてしまったのだろうか。復讐の一歩目から、既に憎悪は哀れみに変わった。
これからもっともっと、私をいじめた奴らをコレに陵辱させようと思っていたのに、踏み出
した足は後ずさっていく。もういい。もう止めよう。そうやって傾きかけた天秤を振り戻し
たのは、うずくまった少女の声だった。
「絶対に許さないから。うちのパパは警察の偉い人と仲がいいんだから。あんた達なんか、
あんた達なんか」
 泣きはらした女の顔から漏れる報復の声。怯えた目の奥にちらちらと瞬く怒りの光。その
様子を見るに、反省の二文字はどこにもないことは明白だった。やはり女は邪悪なのだ。猿
でも出来ることを、女は出来ない。哀れみの心は瞬く間に憎悪へと変わった。
「そんなことしたら、どうなるか分かってるでしょ? このビデオを全世界にばらまく。そ
れでもいいの?」
「出せるもんなら出してみなさいよ。それこそ、あんた達の終わりよ」
 唇を戦慄かせながら女が言う。その様子に、かつての母が重なった。どうして。どうして、
と。
「本当にいいの? 一度ネットに流れれば、一生残るんだよ? 将来、結婚しようとすると
き、相手が君の名前で検索したら、このビデオが出てくる。それでもいいの?」
「いいわよ。できるもんならやってみなさいよ。名前なんて、変えれば解決よ」
 口の減らない女の顔は喋れば喋るほど気を持ち直していくようだった。唐突に怒りがこみ
上げてくる。私はコレに女をはたくよう命じた。コレの骨ぼったい手が女の顔をなぶり、バ
シンと耳心地のよい音とともに、女の口から血が漏れ出る。罰を与えたという悦びもつかの
間、またしても憎憎しい顔から減らず口が飛んできた。
「絶対に許さない。絶対に許さないから」
 恐怖と怒気がないまぜになった女の顔は醜悪そのものだった。その顔に再び母の顔が重な
る。そんな格好、絶対に許さないわよ、と。
「許さない、か。これは君の問題じゃない、私の問題なんだよ。もとはと言えば私がこんな
ことをするのは君達のせいなんだ。陰険ないじめが被害者に与える心の傷について、思いを
馳せたことないのかな? 自分には何の非もないと思っているのかな? ここまでされるい
われはないと――」
「うるさいうるさいうるさいっ! オトコのくせに、わたしわたしって、あんたキモチ悪い
のよ。それがハブられる原因でしょ、この変態」
 怒りに顔をゆがめた女と母が重なる。あんたはオトコの子なのよ、オトコの子なのよ――
「黙れ黙れ黙れっ! 私はオトコじゃないっ! 女性なんだっ! この身体は間違って生ま
れてきたんだっ! 私は女性なん――」
「あたまおかしいんじゃないのあんた。どうみてもオトコじゃん、この変態」
 女の口元に嘲笑が浮かぶ。私は怒りに身を任せて、コレに命じた。もう一度、いや、なん
どもやれと。女の口から悲鳴が漏れる。その様をみるにつけ、心を満たす愉悦に、私は我を
忘れた。


「それで、そのあとは?」と、目の前の、生活にくたびれたような刑事が聞いてきた。私は
肩をすくめて、「見回りに来た先生に見つかって、警察呼ばれて、ここにいます」と答える。
これで三度目の事情聴取だった。いい加減、私もこの刑事のようにくたびれてくる。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「私はいじめを受けていました。これはその復讐です」と、三度同じ答えを返す。
「君と安藤君がしたことはあまりにもひどい。たとえいじめの復讐だとしてもだ。邪悪な行
為だと言っていい。君はそれを分かっていながら犯行に及んだんだね?」
「そうです。何度も言ったとおり、私は、私の受けた屈辱を何倍にもして返したかった。で
もねえ刑事さん。女なんていうものは、押しなべて邪悪な存在なんですよ。許す、許さない
なんて問題じゃない。動物には躾けが必要なように、私は女に躾けを施してたんです。それ
だけ、それだけの問題なんですよ」

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