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日記・小説

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四月一日

僕は小学六年から中学一年ぐらいまで、痴漢にハマっていたことがある。何故そのような行動を思い
つき、行為に至ったか、それは明確にすぎるほどの衝動のためだった。性への、異性への飽くなき好
奇心だ。いけないこと、やってはならないことだと頭では分かっていても、知りたい、触りたいと言
った浅ましい欲求が、幼く、倫理という言葉の意味もようやく理解し始める年頃の少年にはとても衝
き留めることの出来ない衝動となって身体を動かし行為に至らせたのだ。

やってはならないことへの背徳感、バレやしないかと胸をどきまぎさせる罪の意識、そして触れよう
としている女性の魅惑的な体に注がれた興奮に輝く瞳と抑えきれない吐息。ゾクゾクする高揚感と緊
張感。その瞬間、僕は一匹の獣と化し、草を食む羊の群れを舌なめずりしながら見遣るのだ。卑しい
獣欲に身内を浸らせ、獲物に喰らい付くそのときを思い描き、射精にも似た陶酔に心身を火照らせる
利己的な情動。子供なら警戒しないだろう、子供なら例え弄られようと、まさかという思いが叫ぶ声
を凍らせるだろうと、無意識の理解が行動に拍車をかける。子供ほど残酷でエゴイスティックな生き
物はいない。あの頃の僕は、飽くなき異性への好奇心にその身を焼かれたエゴの体現者だった。

初めて及んだとき、僕はそうしようと思い立って行動したんじゃなかった。暴れ馬のごとく身内を蠢
き心を乱す御しがたい欲求を自慰によって吐き出しながら、それでも収まらない凝った情念にどう折
り合いをつければいいのか分からず、度々、近所のコンビニに行くとかこつけて夜の街をあてどなく
彷徨っていた僕は、偶然か必然か、人気のない歩道に一人のOLらしい人影を見つけた。

闇に溶け込む黒い髪と黒いスーツに、一際眼を惹く白い二の足。瞬間、どっと興奮と焦燥が押し寄せ、
肉感的なオシリに目が吸い寄せられた。一瞬の逡巡もつかの間、逸る心を抑えつつ、先を行く彼女の
後をつける。後ろから突然触れば、悲鳴を上げられることは分かっていた。どうしよう。どうすれば
いい。走り去る間際に触るか、それとも――。刹那、彼女は歩みを止め、振り返る挙動を示した。
急速に後悔の念に囚われる。やっぱり、風となって触れば良かった。いやでもと相反する愚にもつか
ない想念の糸は、半身をこちらに向けたまま立ち止まった彼女の姿にブツリと音を立てて途切れた。
四つ角の交差点。車道という海の対岸にあるのは当然のごとく歩道だ。横断歩道という名の橋を渡っ
た先には三つの道がある。彼女の体の向きを北とすれば、北は横断歩道と直進する道。東は、四つ角
の交差点を形作る、もう一つの横断歩道。西は僕と彼女が歩いてきた道だ。この内、西はないだろう
と当たりをつける。なぜなら、踏破してきた道を戻るとは思えないし、その先に民家は見当たらない
からだ。とすれば、北か東か。このときにはもう、頭の中にプランが出来上がっていた。先回りし、
すれ違いざま揉み逃げる。四.五人は並んで歩けそうな幅のある歩道で、不用意に近づけば警戒され
ることは容易に判別できることだったが、そのときの僕には斟酌に値しない問題だった。要は、触れ
ればいい。逃げられたり、悲鳴を上げる暇を与えなければいいのだと。そうして覚悟を決めたとき、
彼女が橋を渡りだした。そのまま、北へと直進する。あとをつけながら、回り込むにはどうしたらい
いか考えていた僕は、一計を案じた。ジョギングのフリをして通り過ぎ、また返ってくればいいのだ。
走っていれば容易に彼女との距離も詰められる。一石二鳥の名案に、悦に入るのもつかの間、すぐに
行動に移した。彼女を追い抜き、二百メートルほど先の交差点で踵を返す。ターンの要領でスピード
を緩めぬまま、一目散に彼女のほうへと足を向けた。徐々に詰まる距離と比例するように興奮と緊張
が高まっていく。近づくにつれ鮮明になっていく彼女の顔は、思いのほか美人だった。そうして間合
い五メートルほどに達したとき、ギアを最高速に入れ替え、ぎょっとする彼女のオシリをすれ違いざ
ま撫で、そのままの勢いで駆け去る。もしかしたら聞こえるかもしれないと思った悲鳴は聞こえず、
変わりに耳朶を打ったのは、はっはっと二酸化炭素を吐き出す自身の息遣いと、ドクドクと脈打つ心
臓の音だった。


一度味わった快楽の余韻は、そうそう消えるモノじゃない。我欲を満たしても、消化してしまえば、
また味わいたいと思うのが人間だ。あの味が忘れられない。あの味をもう一度味わいたい。一度付い
た炎は容易に消せず、次々と密かな楽しみのために夜を歩く。
そうして、次第にその行為はエスカレートしていった。面白い本を捲る手を止められないように、好
奇心という魔物が揺れる心の秩序を乱す。知りたい。先を。もっと先を、と。

そして僕は、やってはならない事に手をつけてしまった。述懐したくない心のオリモノ。凝った心の
蓋を開けるにはまだ早い。その想いが、気鬱する身体とともに、綴る手を止めてしまった。
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